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目指すのは引き算の農業。何も無駄にせず自然の力を引き出す、やえやまファーム・パイン王子の挑戦

島の豊かな自然を守るため、「ファームの外から何も持ち込まない、何も捨てない」という循環型農業を実践するやえやまファーム。パインを愛してやまないパイン王子こと、農産部部長の山中広久さんに、お話を伺いました。


やえやまファームが実践する循環型農業


やえやまファームは、美しい名蔵湾を見下ろす崎枝の高台にある。畜産・農産と食品加工、商品開発、販売までを一環して手がけ、循環型6次産業を実践する。「ファームの外から何も持ち込まない、何も捨てない」という循環型農業では、豚の糞を牛の牧草地の肥料として活用し、牛の糞を堆肥化しパイン畑の肥料にする。そしてパインジュースを作る際に出る搾りかすを豚に与える。ファームで出た副産物をひとつも無駄にしない循環ができているのだ。


パイン王子誕生秘話


パイン王子こと、農産部部長の山中広久さんは、業界では不可能とまで言われていた有機パイナップル栽培に挑戦し、不可能を可能にしてきた。もともとは東京で、不動産業や、商社と船会社の仲立ち業をしていた山中さんだったが、成果を出すために背伸びをしなければならない仕事と、毎晩の接待で体調を崩してしまった。20代後半、このままでいいのかと自問していたとき、東京・国分寺の実家の近くで有機野菜を作っている農家に出会い、初めて農業に興味をもった。まずトライしてみたのは特別栽培基準(※1)のレタス栽培。このとき、農業はかなり儲かる業界だということに気付いた。一方、除草剤などの影響で、嘔吐するなどの不調があらわれたことをきっかけに「有機」に興味を持ち始めた。フルーツや野菜は基本的に嫌いだった山中さんだが、マンゴーは好きだったので、「有機マンゴー」と検索したところ唯一引っかかったのがやえやまファームだった。

当時やえやまファームでは、すでにマンゴー栽培はやめてパイナップルにシフトしていたため、パイナップルづくりに携わることになった。


※1 その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物(農林水産省ガイドライン https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html より抜粋)


パイン王子こと山中広久さん。パイナップルの模型を使って、その特性や魅力を教えてくれた

有機パイナップル栽培への挑戦

有機パイナップル栽培には前例がなく、不可能とまで言われていた。当初、作付面積に対する収穫率は6~7%程度。試行錯誤を重ね、現在はようやく30%程度まで収穫できるようになった。ここまで収穫率を上げることができたのには様々な工夫があった。こちらのウェブサイトで詳しく解説されているので、ぜひご覧いただきたい。


ここでは、様々な工夫の中でも、島にとってエシカルな取り組みを抜粋してご紹介したい。


1.もろみ粕を撒いてアミノ酸豊富な土壌をつくる


もろみ粕は泡盛を作る際に出る副産物で、アミノ酸だけでなく、クエン酸、乳酸菌、糸状菌なども豊富に含まれる。やえやまファームのパイナップル畑には、請福酒造さん提供のもろみ粕が使われている。もろみ粕はもともと、島内に捨てる場所がないため、船で沖縄本島まで運んで処分していたという。本来廃棄物となるものを有効活用することで、島の廃棄物削減にも貢献している。


ドロッとした液状のもろみ粕

2.沈砂池を掘って海への赤土流出を防ぐ


パイナップルは赤土でしか育たない。赤土が海に流れると、濁りによる光合成の妨害や、海水の富栄養化など、サンゴの白化・死滅の原因となる悪影響がある。やえやまファームの畑の下には美しい名蔵湾が広がっている。かつては大雨が降ると赤土が海に流れ出て茶色く濁ってしまうのが見られたが、沈砂池と呼ばれる穴を堀ったことで、赤土流出を防ぐことができたという。畑から海への水の通り道に沈砂池を掘ることで、赤土が沈砂池にたまるので海に到達しないというわけだ。また、除草剤を撒いていないのである程度雑草が生えていることや、裸地面がないように芝や草の種を植え付けていることも、赤土が流れにくい理由となっている。


傾斜地に作られたパイナップル畑のすぐ下は名蔵湾

目指すのは引き算の農業


最近、やえやまファームのパイナップルはビタミンCの含有量が高いということがわかったという。ビタミンCには抗酸化作用があるため、自然の中で生き抜くために含有量が増していると考えられる。やえやまファームのパイナップル栽培はできるだけ自然まかせ。土台となる環境を整えてあげれば自然と育つという。それに対して、現代農業は化学肥料や農薬に頼る農業であり、例えば化学肥料を撒いたために虫が寄ってきて、それに対して殺虫剤を撒くような足し算の農業だ。どんどん無駄が増えていく。



除草剤を撒かないので、防草シートを張ったり、人の手で草取りをしている。畑の周囲に散らばる山の石は、鉄分やミネラルを多く含む

突然だがみなさんは、パイナップルを食べたとき舌がピリピリした経験はないだろうか。これには、化学肥料(窒素)が影響しているということがわかっている。やえやまファームの有機パイナップルは、化学肥料を使用したパイナップルの1/3程度の窒素含有量なので、ピリピリ感が少ない。それだけでなく、有機パインは腐敗しにくいという。きゅうりでの実験結果では、きゅうりを冷蔵庫にしばらく入れておくと、農薬を使ったものは腐敗するが、有機栽培のものは水分がなくなってしわしわになるだけだったそうだ。


有機=完全無農薬というわけではないが、どこまで行っても自分が嫌だと感じるものは使いたくない。足し算ではなく、引き算の農業をしたい。人が口にできるものだけで育てたいと山中さんは言う。


統計が土台にあって初めて感覚が生きる


パイナップルは、一筋縄ではいかないからおもしろいのだそうだ。

「パインって、同じ畑でも個体によって味が違うんです。そんな作物は他にない」

1つ何かがわかると、わからないことが10増えるという。そこがパイナップルの難しさであり、面白さでもある。非常にマニュアル化しにくい作物なのだ。そもそも植え付けから2年かかるので、何が影響しているのか判断しにくい。

だからこそ、データを取ることを大切にしている。例えば気温のデータをとり、累計で何度になったら肥料を撒いた方がよい、などの指標をつくる。最初は感覚でやっていたが、データがあるからこそ初めて感覚が活きるというのが、統計学が好きだというパイン王子の考えであり、日本初の有機栽培に成功した理由だ。感覚だけに頼らず、徹底的に降水量などのデータを取ることを怠らない。こうした地道な努力が、次世代へもつながるメソッドとなっていくのだろう。


パイナップルは「フィボナッチ数列」が当てはまる「黄金比」の植物だという。ヨーロッパでは「奇跡のリンゴ」と呼ばれた

これから挑戦したいこと

挑戦したいことは山ほどある。まずは、パイナップルの隣に「コンパニオンプランツ」と呼ばれる、近傍で栽培することで互いの成長によい影響を与える作物を植えること。マメ科の植物などは、代表的なコンパニオンプランツだそうだ。将来は畑の中で循環するような「アグロフォレストリー」を目指したいという。

また、現在は苗から育てているパイナップルを、種から育てて品種改良をしたいという。種から植える場合、収穫までに7年ぐらいかかるそうだ。畑の作物としては気の遠くなるような年月とも思えるが、これがパイナップルの歴史を変えるかもしれないと思うと、7年後が楽しみになる。


パイン王子(左)と、親子ほど歳の離れた新人・奥村次郎さん(右)。やえやまファームには、挑戦する人が集まってくるようだ

やりたいことはたくさんあるが、パイン王子の一番の願いは、パイナップルのファンが増えること。「今年のパインはちょっと酸っぱかったよね」「去年のは酸っぱかったけど今年は甘かったね、そういえば今年は台風少なかったよね」などと連想してくれるようになることが本当に嬉しい。


今年はどんな味のパイナップルが獲れるのか。パイン王子のこれからの挑戦から、目が離せない。


取材後記

八重山の強い日差しの下、笑顔で出迎えてくださった山中さん。静かな物腰で、パイナップルの魅力や有機栽培への想いを熱く語ってくださいました。その挑戦は苦労の連続で、イノシシ被害で畑が全滅してしまったこともあるそうです。それでも「そもそもは僕らが彼らの住まいにお邪魔しているのだから、彼らは悪くない」と言い切る姿勢こそが、島に優しい農業を実現してきた根底にあるのだな、と強く印象に残りました。

ああ、6月の収穫期が待ち遠しい。今年は絶対やえやまファームのパイナップルを食べたい!と思っている私は、パインファンへの第一歩を踏み出したのかもしれません。


Asumi



やえやまファーム崎枝農場 石垣市崎枝556-111

やえやまファーム 石垣島直売所 石垣市平得554-1 電話番号:0980-83-8788

※営業時間:平日10:00~16:00(12:00-13:00は昼休憩)(月~金、祝日を除く)


やえやまファーム公式ホームページ https://yaeyamafarm.net/

オンラインショップ https://yaeyamafarm.com/


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