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Volume 5. 赤土流出はなぜ無くせないの?〜努力する農家さんを応援しグリーン経済をつくろう〜

さて、前回は下水道のお話をしましたが、すでに説明した”面”と”点”の汚染源(これがわからないかたはトピック3へ)のうち、下水道は管理しやすい”点”のほうでした。これからは”面”の話をしていきます。


出どころの責任がはっきりしないため、罰則を伴う規制がしにくい面源汚染 (ノンポイントソース )で、サンゴに悪影響があるとよくいわれる代表格に、赤土流出があります。

赤土流出がサンゴに悪いことはよく研究されてわかっており、沖縄県は平成6年に赤土汚染防止条例を制定しさまざまな対策をしてきました。



ただ、対策をしているとはいっても、その効果はなかなか限られているといえます。

なぜなのか。

まず、赤土の流出元は、その80%が農地であることがわかっています。

(個人的には、農業だけを悪者にすることは不公平でどの産業も個人もみんな責任があり、要はそれを防ぐ仕組み作りだと思っています。)



赤土には、畑で使用した肥料や農薬などさまざまなものがくっつき一緒に海に流れ込みます。物理的にサンゴを覆い光や水の流れを遮断するだけでなく、水質を悪化させることでサンゴが死滅する要因となります。


しかし、農地には罰則のある規制はありません。一方、たった8%を占める建設・開発地には罰則付きの規制があり、赤土対策をしている許可を得なければ開発が許されなくなっています。(*1)

汚染源が面になると流出元の特定ができないため、規制が難しくなっているということもあるでしょう。でも開発地の方は管理できています。現代の世の中、農地への規制もやろうと思えば不可能ではないと思いますが、おそらく昔からある農地などに新しい規制を加えることには反対意見が多く難しいのでしょう。政治経済的理由が多そうです。


なので、せっかく赤土流出防止条例があっても、 農地からの改善結果は下のように、なかなか進まないのが現状です。開発地や米軍基地は効果的に減らせているのに、改善の効果が、罰則規定があるかないかで明らかです

農地からの赤土流出の規制が、やはりネックなんですね。。

やっと規制ができた10年後にはもうサンゴは絶滅し、農地から土壌も無くなっていた、なんてことになるのは嫌ですね。


沖縄県・農地からの赤土等流出対策パンフレット(*3)より 


そして、防げなかった赤土流出は川から海へ流れ込みます。環境省が定めたモニタリングポイントで赤土の河川からの流出量は長期でモニタリングされており、石垣島には全部で39ポイント、そのうち9つの重要監視ポイントがあります。


沖縄県と石垣島のポイントの、達成状況の比較が以下になります。黄色の場所が多いほど、削減目標と実際の流出量に差があり、まだまだ減らさないといけない状況を示します。石垣島で一番流出が多く、目標達成まで遠いのが、宮良湾です(*2)。


平成25年度赤土等流出防止海域モニタリング調査結果 第4章より(*2)


農地での流出防止に明確な規制はないため、各土地のオーナーの努力義務となっており、石垣市農政課でも取り組みへの支援がさまざま行なわれています(*3)。


でも、罰則のある規制はないので、最終的には個人の意欲にまかされることになります。


ここで起こる大きなジレンマ!

それは、今の経済がまじめに対策した農家ほど儲からなくなっている!😭という悲しい事実


赤土を防止するためにすこし支援策がついたからといって、実際にグリーンベルトを植えたり、農法を変えたりと数々の営農策をするには、農家の時間・労働負担がとても大きいのです。特に、年齢が高い農家には本当にきつい作業だそうです。

この、真面目な人ほどソンをする、そんな社会はイヤじゃないですか?


それでも、環境を汚したくないと頑張って様々な工夫や努力をしている農家さんが石垣にはたくさんいます。豊かな土壌を守ることは、農家さんにとっても大切です。畑の表土が1センチできるには、なんと10年もかかると農家さんは言います。対策をしなければその1センチが一雨で流れてしまうことがあるそうです。みなさん、土地に愛をもってお仕事をしていることが彼らと話すとよく伝わってきます。


実は、世界規模でも土壌劣化は深刻な状態と言われています。土はごく当たり前に存在するように思われますが、人類の歴史の中では人為的改変によって社会経済基盤であるたくさんの表土が失われ、世界の食料自給率を下げていると国連環境計画 (UNEP) は発表しました。これは過去に古代文明が衰退した原因ともなっている、人ごとではない問題なのです (*4)

石垣市赤土等流出防止営農対策地域協議会制作・営農対策パンフレット(*5)


石垣島の白保にあるNPO法人夏花ではサンゴ礁の海に土が流れでないように、畑の周りにグリーンベルトとして植えた月桃からルームフレグランスを作り、その収益をサンゴ礁保全事業に還元する取り組みを行っています(*5)。



行政が行っている取り組みのほか、2019年から関心を持った市民が集まって開始した、『コラコラ』(コーラルとコラボレーションから命名)(*5) というサンゴに優しい地域の認証制度も始まりました。

こちらはサンゴに優しい取り組みのガイドラインを設定し、それを満たしている農家、飲食店、宿泊業(ホテル)に認証を授与して、取り組んでいる事業を観光客や地域の人に応援してもらおう、という良い環境と経済の循環をつくる試みです。

コラコラでは、除草剤、農薬、化学肥料不使用の農業を拡げる事に力をいれています。このような農産物の消費量が増えることで、CO₂削減、土壌・水質の改善へとつながり、環境も人の健康も守っていくことができます。


消費者としてはなるべく、頑張って大変な対策をとり、自然環境を守る努力をしている農家さんを応援し、努力に見合う値段で買ってあげたいですね!


そのほかにも、石垣島には無人販売所や地域のお店で、小規模で環境に優しい農法で作られた野菜を売っている場所がいろいろあります。

消費者が応援することで、もっと対策がとりやすい仕組みが全体的に作られていけば、負担も軽減していくでしょう。安く買えればいい、自分が良ければいいと言っていたら、10年後、20年後の未来は野菜が手に入らない社会になっていたりして。

それが、公平で循環する、幸せな社会と経済、そしてそれを支える環境を作っていくのではないでしょうか。


参考:


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