南ぬ島石垣空港から車で5km程北へ進んだところにある大里売店。大里集落内にある売店として地元の人に愛されながら、八重山の素材を使った様々な民具の販売やワークショップを行う、密かな有名店でもある。オープンして2023年12月でちょうど4年になるという、この店を切り盛りする徳光修子さんにお話を伺った。
大里売店のはじまり
店内には、石鹸、調味料、卵などの生活必需品が並ぶほか、月桃やアダンなど、島の素材で作られたバッグや草履、笠などが所狭しと陳列されている。
「私、もともとやちむん館 (注1) にいたの。その時に白保のおじいとかが納品に来ていたのをきっかけに民具に興味を持ってね。白保は民具作りが盛んで、作っている人が身近にいたからね」
もともとものづくりが好きだった修子さんは、やちむん館では着物のリメイクや民具作りなどのワークショップをやっていた。退職後、民具作りに専念したいと思っていたところ、住んでいた大里集落で、かつて共同売店だった店舗が空いていたので、修子さんが借りられることになったのだ。
(注1)現在は石垣市白保にある、民具ややきもの等を扱う工房。
おじいから学んだ民具づくり
「昔はね、誰も一からなんて教えてくれなかったわよ。『見れ、見れ』しか言わないのね。そうして教えてくれたおじいは、みーんな亡くなった。年配者は早く捕まえて聞かないとだめね」
言葉では説明できない。だけど、見よう見まねで自分である程度やってみて、わからないところを聞くと親切に教えてくれたという。そうやって先人の知恵が受け継がれてきた。八重山では、民具は、生活においても、祭事においても必要不可欠なものだ。祭りではふかふかのアダンの草履を掃き、日常でも農作業などでクバ笠をかぶれば、強い日差しから頭を守りながら通気性を保ってくれる。
取材させていただいた日は、民具制作ワークショップの最中だった。沖縄本島からの参加者の方々が、月桃のかごバッグや、ガンシナーと呼ばれる鍋敷きを作っていた。気持ちのよい風に吹かれながら、和気あいあいと木陰で作業をされている。
ガンシナーを作っていた参加者は「作っていくと材料が教えてくれるという感覚があった。頭で考えるのではなく、材料にしたがって手を動かしていけば作れる。おじいが『見れ』というのが理解できる」と語ってくれた。
「おじいも、定年退職してからはじめる人が多いのよ。年金もらうようになってから始めるんだけど、みんな親が作ってるのを見ているからだいたい作れるのよね。わからないときは完成品をばらして研究するの。ガンシナーなんかは私もばらして研究したわよ」
基本がわかれば、あとは完成品を見れば構造がだいたいわかるようになる。素材を自分で材料に加工することができれば、自分の力で作れるようになっていくので、島在住の人にはできるだけ材料づくりからやってもらっているそうだ。
伝承される知恵と、改良される技法
バッグの持ち手の芯になるロープは、ハンモックの先生に教えてもらった方法で編み込んでいる。先端をほぐして、先端同士を編みこんでいく。海人も使うロープワークで、どんなに引っ張っても抜けない丈夫な持ち手をつくる。
「民具は工芸品ではなく生活で使うものだから、それぞれが使いやすいように、作りやすいように作っているのよ」
石垣島ではそこらじゅうに生えている月桃は、使いかた次第でテープにも糸にもなる。ショウガ科で、抗菌作用があってかびにくく、強い。葉がら(注2)の部分をテープ状に丸くして干すのだという。
(注2)葉の付け根の茎のような部分。ネギのように何層にも重なっている。
人それぞれ、道具も工夫して自分で作るのだそうだ。伝統工芸のように、昔からの技法が決まっているものなのかと思っていたが、思ったよりずっと自由だ。道具も方法も、工夫次第。作りたいものに合わせて、知恵をしぼる。
暮らしのサイクルの中で育まれる民具
修子さんが「西表島手わざ帖」(注3)という本を紹介してくれた。この本の中の「西表島・手わざ暦~作り、使う歳時記~というページを開いて説明してくれた。
アダンの木根は秋に採り、縄をなう。正月にその縄を凧あげに使い、ねじれを取る。ねじれの取れた縄は、田植のときに苗を植える目安として田んぼに張って使う。すると縄が泥染めされた状態となり、かびにくく強くなる。夏にはその縄で編んだあんつくというかご状のバッグを下げて、収穫の感謝と翌年の五穀豊穣を祈るための豊年祭を迎えるのだ。
理にかなっているとはこのこと。一年のサイクルができている。どの素材も、採ってよい時期といけない時期が決まっていて、このサイクルに沿った暮らしをしていくことで、また次の年も素材を得ることができるのだ。
ところで、石垣島を含む八重山の行事は、旧暦に合わせて行われる。移住2年目の筆者も、6月のハーリー(海神祭)のときには驚いた。「ハーリーの頃に梅雨が明ける」と聞いていたのだが、まさにぴったりに梅雨が明けた。
今年2023年は旧暦では3月が2回あったうるう年だそうで、
「そういう年は、新暦をあてにしているとなかなか暑くならず春が長い気がして『あれ?』となるけれど、旧暦だと納得だよね」と修子さんは言う。
そう、自然とともに暮らす中では、全てが理にかなっているのだ。昔の人はすごい。
(注3)西表島手わざ帖③クバ・ピデほか 制作:西表島エコツーリズム協会・民具継承チーム 発行:西表島文化祭実行委員会/特定非営利活動法人西表島エコツーリズム協会
これから挑戦したいこと
「これから挑戦してみたいことはありますか?」と聞くと、
「いっぱいあるんですよ~!ちょっと待っててね!」とお店に戻った修子さん。
八重山では「ピデ」と呼ばれる、シダの仲間を使ったかごを作ってみたいと、実物を持ってきてくれた。ピデはパキッと折れやすいので、採ったその日に作らないといけないという。
ピデの他にも、クージ(トウツルモドキ)など、使ってみたい材料がたくさんあるのだそう。昔に比べると減ってしまったクバは、自分で植えたという。クバは日陰で育つと柔らかくなるので、日陰に苗を植えて育てている。
「使った分ぐらいは植えないとね」
ちなみに月桃やアダンは、放っておいてもどんどん生えてくるので、少し切ってあげたほうがいいくらいだそう。
こうして素材としての植物が受け継がれ、民具が受け継がれ、祭りなどの文化も受け継がれていく。元来、島の暮らしは自然のサイクルに従う形で存在していて、抗うことなくその循環の中に組み込まれていたということを、今も伝えてくれる民具。
現代のシステムの中では、欲しいモノや便利なモノはすぐにお金で買えて、いらなくなったら捨ててしまう。今この瞬間は快適だが、無駄が増え、ゴミが増える。モノを潤沢かつ安定的に供給するために出てしまう社会のひずみに、違和感やストレスを抱えたとしても、大きなシステムから抜け出せなくなってはいないか。
自然と共に循環する暮らしこそ、無理がなく、心地よいのかもしれない。八重山には、そう思わせてくれる文化がまだまだあるのだ。自然と共生してきた島の暮らしを、民具が伝えてくれている。
大里売店
沖縄県石垣市白保1794-9
営業時間 AM8:00~19:00 水曜定休
※民具ワークショップは要予約
取材後記
特別なことではなく、これがここでの暮らしそのもの。なにも、サステナブルだと声高に言わなくたって、当たり前のように自然の循環に組み込まれ、持続可能な暮らしを営んできた先人たちの知恵に脱帽でした。すぐそこにある材料で、必要なものはなんでも作れる。壊れたら直せばいいし、捨てたら土に還るだけ。島を出た若者が祭りのために地元に帰ってきたりするのを見ていて、八重山ってすばらしいなと思っていましたが、こうした文化が受け継がれていく中で、民具が非常に大切な役割を果たしていることを知りました。この地の文化はまさに自然との共生そのもの。八重山の魅力にあらためて気づかせていただいた取材でした。
Writer Asumi
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